●放射線の持つ高い透過力やエネルギーは、医療をはじめ、農業、工業など、身近な多くの分野で利用されています。
●放射線を利用するときは、厳密な安全管理の下で注意深く行われています。
放射線は人体や物質を透過する際に、方向を変えたり、エネルギーを失ったり、別の放射線を生じたりすることがあります。例えば、エックス線の透過力を使って体内の様子を観察するのがエックス線診断です。
また、放射線の細胞致死作用はがん治療や滅菌に利用されています。がん治療においては、放射線をがん細胞に照射することでがん細胞のみを死滅させる高度な治療技術が発達してきています。
一方向からX線を当てることで体の内部を観察するだけでなく、さまざまな向きから人体のX線写真を撮影し、コンピューターで解析することにより、あたかも人体を輪切りしたように体内の様子を詳しく観察することができるようになりました。また、放射性同位元素を含む化合物(標識化合物)を体内に注射し、放出される放射線を検出するPET検査で、がん組織の早期発見も可能になっています。
さまざまなプラスチック製品の滅菌にガンマ線や加速器からの電子線が利用されています。
ガンマ線、電子線に加えて陽子線や重粒子線などを駆使した高度ながん治療技術が発達してきています。
放射線の細胞致死作用を利用し、植物の発芽を抑制したり、殺菌、殺虫、虫の不妊化などを行っています。
これにより、放射線が農産物の検疫や食中毒の防止、農作物や食品の保存期間の延長に役立てられています。
また、放射線照射により細胞の遺伝子を突然変異させ、育った植物の中から生活に役立つ農作物や園芸植物を選んで繁殖させる品種改良も行われています。
放射線照射から生まれた形や色が異なる新品種の花
放射線照射により誕生したナシ黒斑病に強いゴールド二十世紀ナシ
日本では1950年代から放射線を使った品種改良が行われています。その結果、ナシ黒斑病に強い梨や寒さに強い稲などが作り出されました。また、放射線を当てることで花の色の品種改良も行われています。
じゃがいもの芽に放射線を当てることで発芽を防止します。日本では食品への放射線照射はじゃがいもだけですが、海外ではスパイスの殺菌などにも使われています。
沖縄では、ゴーヤなどに被害を与えていたウリミバエの駆除を目的に、人工飼育したオスに放射線を照射。不妊化してから野外に放つことで、駆除に成功しました。
プラスチックやゴムなどの物質に放射線を当てると、物質を構成する原子や分子の状態が変化し、それを利用することで、耐熱性や耐水性、耐衝撃性などを向上させることができます。また、放射線を当てることで物質に新たな性質を持たせられることを利用して、例えば、抗菌・消臭力のあるシーツなどを製造しています。
他にも、電子線を使うことで、排ガスや排水中の有害な化学物質を分解処理することもできます。
繊維製品等に放射線を照射すると抗菌加工を施せます。照射後の繊維は、長期間保存したり、洗濯をしても良好な抗菌性を維持します。
ゴムに電子線を照射すると持久性が増すため、自動車のタイヤの製造などに利用されています。
ビニール電線にガンマ線や電子線を当てると、耐熱性が増し、燃えにくくなります。
放射線の透過量の変化を測定することで、材料の厚さを正確に測定できることを利用し、厚さを均一に保たなければならない工業製品の工程管理に使われています。
エックス線やガンマ線を用いて製品や材料を壊さず内部の様子を調べたり、外から見えない割れ目、欠陥、亀裂などを見つけることができます。溶接した部分の検査や、航空機のジェットエンジンの定期検査、空港での荷物検査などに使用されています。
火災報知機の煙探知機には、アメリシウム241から出るアルファ線により、一定の電流が流れています。この中に煙が流れ込むと電流が減少し、そのときに警報が鳴るしくみになっています。